ぐるぐるイギリス

 

湖水地方ピーターラビットの旅、というようなツアーに参加したのが、初めてのヨーロッパ旅行だった。一時期のようにパックツアーを悪し様に言う風潮は陰をひそめたけれども、それでもやっぱり先入観と言うようなものが、自分を含めて心の中にこわだかまっていると思う。でも、このツアーに参加してみてからは、パックツアーもけっこういいじゃん、と思えるようになった。何しろ時間がコンパクトだ。自分たちだけでは、これほどまで多くは観光も食事もできはしないだろう。
レストランを探すのって、けっこう時間がかかるのだから。それでこの値段なら、私なんかはけっこう納得しちゃう。
自分だけの時間が無いというなら、それは自分で交渉しよう。最終的なつじつまさえ合っていれば、決して束縛はされないと思う。少なくとも私たちの添乗員さんはその辺りがフレキシブルで良かった。
 

アリスグッズを買いに行く

オックスフォードのクライストチャーチ大学の向かいに、アリスグッズ専門店は立っている。そこはランチを取ったレストランと、バスが停められているターミナルとをつなぐ道にあった。そこで私たちはレストランのランチのデザートをキャンセルして、アリスショップへ走った。買い物をしながらランチを終えてやってくる、ツアーの人たちを待って、思うとおりのお買いものもできて、計画は成功。
ここで買ったアリスのお茶会のイラストがついた白いティーコージーはすぐれもので、中に入った綿がとても厚くて、なかなかお茶が冷めない。わが家の冬の必需品になっている。

小さなイギリス人

田舎町のハワースにあったブロンテ姉妹の館は、全ての窓から墓場が見える陰気なムード。幸いにも天候は晴れ晴れとしていて、かなり明るかったので、怖さは無かったけれど、この家は物件としてはあんまり良くないと思う。もしかして、早死にしたのは、霊障とかあったんじゃないだろうか…などと邪推してしまう。
中にはブロンテ姉妹の遺品が並んでいたが、どれもこれも今の西洋人のサイズじゃない。身長153センチの私たちサイズ!(あと20キロぐらい減量した場合の話)友達に献血出来ないぐらい小柄で、体重もほとんどない人がいるけど、彼女たちぐらいなら、今すぐにでもぴったりかもねぇ。
そういえばベッドも小さいし、天井も低い。たった100年ちょっとで、人間ってこんなに体格が変わってしまうんだ、と実感。近頃の日本人の体型が変わってきたのも、これから考えると当然かもしれない。あと50年もしたら、きっと日本人の体型も、小柄ながらもスタイルばっちり、ネオテニータイプ以外は、西洋人に全くヒケを取らない体型に変化するかもしれない…と予感する。
ハワースの村は本当に小さくてかわいい。どこの店も観光用のショップに変わっているけれど、外観はブロンテ姉妹がいたころと、全く変わっていない。
ブロンテ館へ入る小道のすぐ角にあった、小さなスイーツ(お菓子屋)の店には、見たこともないような物がたくさん売っていて、目移りするばかり。巨大なチョコの固まりとか、ミントのブロックとか、麦わら帽子みたいな形の、ラムネ菓子とか…でも、伊吹が一番好きなスイーツは、ゼリービーンズなのだった。それも前世界に流通している、あのアメリカ製の色とりどりのビーンズ。ああ、ここでも買ってしまった。

ヨークの城壁から湖水地方へ

 

城壁の町ヨークでは、トイレの時間にちょこっと抜けて、公衆トイレの上にあった市場を観察。肉屋から下着まで売っている、本物の市場。ストロベリーが2箱で3ポンドと格安。肉屋や魚屋のディスプレイは、まるで雑貨屋さんのようにきれい。
そろそろトイレの列も無くなったかな、と戻ってみると、ツアーのグループは今にも移動寸前だった。間に合って良かった…。

ちょっとだけ残念なことに、ピーターラビットのポターの家では、入場の時間がうまく合わなかったため、先にワーズワースの庭に回ったせいで、ほとんど時間が取れなかった。誰もがここで買い物をしようと手ぐすね引いていたため、売店は上へ下への大騒ぎ。もちろん、その中に伊吹もいたんだけど……。やっぱり、もうちょっとゆっくりしたかったなぁ。
ポターの庭は思っていたより小さくて、坂の上に立っている小さなおうち。回りには本当に何もなくて、夜は寂しいだろうな。でも、羊はどこにでもいっぱいいた。

ちょうどイギリスに行く寸前に、有名なネッシーの写真が、ニセ写真だということが発覚したネッシー博物館。しかしっ、一枚や二枚の写真がニセモノでも、まだまだ他に目撃写真はあるんだぞ。ということで、ネッシー博物館は盛況でした。
庭先にある小型ネッシーの前には、バグパイプを吹いているおじいさんがいて、ツアーのおばさんたちに大人気。
ネッシー博物館は、ネッシーの博物館というよりは、ネッシーを熱心に探した人々の博物館だった。氷河期に削られた大地の隙間に、水が溜まってできたネス湖は深くて、川のように細長い。
あまずっぱいバニラの香りを放つ、黄色のエニシダが咲き群れる中を、バスは北へ北へと向かう。


湖の回りを散歩する

レイクサイドホテルという所に泊まった夕刻、なかなか暮れない太陽に浮かれて外出した私たちは、どこまでも続く道を歩いていった。道ばたに堕ちているのは、犬のフンかと思えば、実は巨大なナメクジ(スラッグ)だった。こんな大きな黒いナメクジなんか、日本にいるはずもなく、勘違いしてもただ呆然とするばかり。植生の違う森の木々は、どこもが絵にかいたように見える。ふんわりとした緑色の苔も大木の幹に生える蔓も、しんと静まり返った薄紫の空も、全てがイギリス色をしている。
我に返った時には、すでに時計は夜の9時を指し、爪先を夜に食べられてしまっていた。

エジンバラの夜

夜に重さを感じたのは、この町だけだった。
エジンバラの夜は都会だけあってネオンが華やかで、にぎにぎしいのだけれど、どことなく気配が古い。
通りがかりの墓地に紛れ込んだり、裏通りの長い長い階段を登ったり。広い道路の向こう側にたたずむファーストフードも、なぜか寂しげだった。
ふと気がつけば、いったい何の仕業か、ふっかふかの絨毯の上に、何の気なしに落としたはずのメガネのレンズが、あっと言う間に真っ二つに割れていた。あまりの理不尽さに声もなく、魔女の笑い声さえ聞こえるような気がした。

エジンバラで入った子供とおもちゃのミュージアムは、とても明るくて子供の遊び場まで作ってある、大きなミュージアムだった。着せ買え人形や、音の出るおもちゃ、ゲームなど、種類によってフロアーが作ってある。
中には、昔のロンドンに居たという、連続殺人鬼の床屋と人肉パイ屋の動くおもちゃなんてのもあり、その人形が笑えるぐらいエグくて…面白かった。イギリスでは超有名な少女小説女流作家のコーナーもあったが、残念ながら楽しめるほどの知識が無い。挿し絵のムードから見ると、昔の小学○年生とかに載ってそうな話らしい。
他にも10ペンスを入れると動き出す自動演奏器は、なかなか良い音を立ててくれた。入口できれいなポストカードを買って出てくる。

 


駆け足でロンドン

どうしてもここだけは行きたいという、すずはらの要望もあって出かけたのは、ベーカー街のホームズ博物館。入場料は£5。
玄関には当時の警察官の扮装をした警備員がいて、入場制限をしている。中はそうとう狭いらしい。メイドの衣装をつけた受付のお嬢さん、1階はミセス・ハドソンのティールームになっていた。そのわきにある人がすれ違えないほど狭い階段が、とてもそれっぽい。
2階と3階に作られたホームズとワトソン博士の部屋は、真っ白に俟をかぶった様子が、いかにもそのまま状況を保存しているようなムードがあって、とてもリアル。何しろホームズが実在した人物だと、本気で信じていた日本の少女の存在が、最近発覚したという事実もあるほどだ。
最上階にはホームズのグッズショップ。精巧なホームズ・ルームのミニチュアや絵ハガキ、ベーカー街のプレートなどが売られている。ここで5匹の熊のうちの一匹を買った。ホームズのコスプレをしたテディ・ベア。売店のミセスに、「ほーら、とってもかわいいでしょ、ここでしか売っていないのよー」と挑発され、(売り込みのセリフは、全部英語だったはずのに、なんとなく理解できのは何故?)ついつい…。襟元の紺色のスカーフがとてもかわいい。 時間がないことがわかっていながら、どうしてもロンドンでお茶がしたい!という欲望に負けて、「ハドソンさんのティールーム」でお茶にする。2人分のティーセットを頼んだら、家で使っている5人用のティーポットの1.5倍はあろうかという、巨大な真っ白のティーポットが出現した。香ばしいスコーンをお茶菓子にして、しばしの休息。夏なので日が長くてありがたい。
それからピカデリーへ向かい、吉祥寺のような…いや、吉祥寺が真似たんだろう通りを歩きながら、閉まりかかった店や、まだぎりぎり開いている店でお茶を買ったりしつつ、エロスの像まで歩く。
三越へ入った段階で、すでに7時を越えていた。当然ながら、それから向かったロンドン塔はクローズ。おまけにうっかり夕食を取り損ねていたもので、空腹感が疲労を助長する。仕方がないのでそのまま地下鉄に乗って帰ろうと、駅へ向かったところ、地下鉄構内にまで遺跡が立っていた。ローマ時代の壁らしい。歴史の長さを実感してしまった。

ロンドンには、百を越えるほどの博物館があるという。もちろん大英博物館もその一つなのだけれど、今回は残念ながら行くことはできなかった。大英博物館のグッズも欲しいんだけど…新宿三越の南館にある、コスモポリタン博物館のグッズがとてもきれいで、大好きなの。名刺入れだけ持っているけど、ピアスとかネックレスも欲しいなぁ…。
今度行ったらぜひ、他の博物館にも行ってみたい。あと、子供が良く連れていかれる、科学博物館や水族館、動物園も。自分で好きに回れる展示室が大好き。だって、本当に自由に、色々な事を想像していられるでしょう?
見知らぬ博物館で、どんなことを思いつくか、自分でも楽しみになってくる。

またきっと、ロンドンには行くことになるのでしょう。後ろ髪を引かれる旅行は、本当に良い旅行なんだから。